寝ている私の腕を掴む祖母
祖母は『死んだら仏壇を揺すってやるからな』と冗談を言うような人でした。
そんな祖母が死去。
本当に仏壇がガタガタと揺れることもなく、平和な日々を過ごしていました。
しかし、四十九日を控えたある日、一人で寝ていると祖母に腕を掴まれました。
『街で喧嘩を見かけても正義感で止めに行ってはいけない。
巻き込まれてしまってはいけないから誰かに助けを求めるように。
信号が青になったからと言って飛び出してはいけない。
赤信号を無視して突っ込んでくる車だってあるんだから。』
と話しかけてきました。
亡くなっているとは言え相手は祖母。
特に恐怖もなく私も今までと変わらずに会話を続けます。
すると今度はまさかの頼みごと。
『じいの家のキッチンの電気が切れかかっているから取り換えてあげて欲しい。
一人だとそういうことができないから頼む。』とのことでした。
なんて細かい指示なんだと思ったらおかしくて、思わず祖母に疑問をぶつけてしまったのです。
ばぁ、死んでるよね?幽霊に問いかけた
私「電気を取り換えるのはいいけどさ…。
ばぁ、死んでるよね?」
しばらくの沈黙の後、祖母はこう答えました。
祖母『おとも、細かいこと気にしちゃダメ!』
えぇ~!!!
生と死って真逆じゃないの?
それが細かいことなの?
細かいことを気にしちゃダメ!の言葉を最後に笑いながら祖母は消えていきました。
私は目を覚ましてからも笑いが止まりませんでした。
生きているときから物の言い回しが面白くて、人を笑わせてくれる人でした。
今回もそんな祖母らしい言葉を残して消えて行ったのです。
私の腕を掴んで会話をしたのが本当に亡くなった祖母だとしたら、
祖母の言う『生と死を気にするなんて細かい』という言葉の意味が分かる気がします。
生と死は紙一重。
会いたいと思ったらすぐに心を通わすことのできる場所にあるのかもしれません。
そう考えたら大好きな祖母とのお別れも寂しくはなく、
いつでもそこにいるような気がしています。
翌日の父の行動に驚き
祖母が現れた翌日、父から電話がありました。
一緒にじいの家に行かないかとのお誘いでした。
私の両親は離婚しており、私は母と住んでいたので父とは数カ月に一度連絡を取って食事に行く程度。
父が家まで車で迎えに来てくれれば祖父の家までバスで行く必要がなくなる。
そしてランチもごちそうになれる。
ラッキー。
ついでに電気も用意しておこうと思って家にあった蛍光灯のストックを玄関先に置いて父の迎えを待っていました。
父が到着したので車に乗り込むと、父が口を開きます。
『じぃの家に行く前に電気屋に寄りたいんだよ。
実は昨日、ばぁが夢に出てきてさぁ、台所の電気を取り換えてくれって言うんだよ。
本当に切れてるのか分からないけど気になって、電気のカバーだけは持ってきたんだ。
じぃだけでは掃除が出来なくて汚れてるだろうしね。
たまにはカバーも変えた方がいいだろ。
あとは蛍光灯を電気屋で買えばいいんだ。』
えっ?
父の所にも祖母が!?
しかも同じ指示をしてる!
実は…と私は蛍光灯を見せました。
父は夢に出てきた相手が間違いなく祖母だったと確信したのか、
嬉しそうに祖父の家に車を走らせました。
祖父の家に上がり、一目散にキッチンに向かって電気をつけると、
今にも切れそうにチカチカ。
本当に切れかかっていました。
あれは本当に祖母だったんだ・・・。
祖父母はお互いにぶっきらぼうでした。
言い合いをしているのをよく見かけたので、
なんて思いやりのない夫婦なんだろうと思っていたけれど、
二人の間にはしっかりとした絆があったのでしょう。
『電球を取り換えてくれ。じぃは一人だと何にもできないから。』
祖父のことが心配で私と父に助けを求めてきたと思うと温かい気持ちになりました。
しかし、蛍光灯を取り換えて一息つきながら私はふと思いました。
ねぇ、ばぁ。
それこそ細かいことじゃない?
キッチンの電気なんて生と死よりよっぽど細かいでしょ。
細かいことは気にしちゃダメー!(笑)
そんな私のツッコミに大笑いする祖母の顔が見えた気がします。